お喋りトリオ(ワンドロお題「風エレメント」)

 クラスの座席を出席番号順に振っていった結果、双子の前の席には天秤が、すぐ後ろには水瓶が配置されることになり、三人はおのおの違う中学校出身だったにも関わらず一学期のうちにすんなり意気投合した。最初の中間試験の日程が発表されると、「双子って予習とかするタイプ?」と聞いてきたのは天秤だった。プリントを列の後ろへと回しながら。
「うーん、一週間前、とか?」
「真面目だなあ」
「いや、そん時の友達が真面目だったから付き合い的なやつですよ。つかそんな苦戦しなくね?」
 天秤は清潔感のある顔で苦笑いをして「ですよね!」とおちゃらけた口ぶりで言っていたが、いまいち回答にキレがなく、何かしら考え事をするように視線を教室に飛ばしていた。
 やがて、思い切ったようにすました口調で切り出した。
「あのさ、この最初のテストで順位が発表されるじゃない」
「うん」
「この学年でさ、モテるかどうかがここで決まるんじゃないかと思って」
「あ~~~そこ勝負していくわけですね」
「いや、勝負とかそういうことじゃないよ。そんなトップに立ってやろうとかそういうえぐい話じゃなくて。もっとこう、ほどよくいい感じに見られるポジションを決めたいわけだよ」
「天秤って中学んときは成績どうだったの」
「5段階で4多めだったかな。国語は5も取ってたよ。双子は?」
「英語だけ5。あとは3とか4とか2」
「あ~英語強そう」
 天秤と話しながら何気なく横向きに座り直し、双子は後ろの水瓶の顔を見た。水瓶はプリントを見ながら平板な表情をしていたが、双子の体勢に気づくと「何?」と低めの声で話しかけてきた。
「水瓶って中学の成績どうだった?」
「国語2、数学5、社会2,理科5、英語3」
 端的な回答にリアクションに詰まり、声を震わせながら「あ~なんとなくわかるような」と返す双子だった。テスト勉強をしているのかと尋ねると、水瓶は首を横に振った。
「わざわざテスト勉強はしない。塾あるし。理屈が合わないと思ったとこだけ確認してる。理屈が通らないと頭に入らなくて」
 双子が苦笑いで「ですってよ天秤さん」と右から左へ流すと、天秤は「もうちょっと不純な動機が欲しかったですね~」と悩ましい顔をするのだった。とはいえ、切り替えていくのも天秤が一番早い。
「よし発想を転換していこう。意外だったけど得意分野が全員違うってことはさ、英語がわかんなかったら双子に訊けばいいし理系は水瓶に訊けばいいんだもんな」
 双子をまたいで後ろの水瓶を見る天秤に、水瓶は双子をまたいで言葉を返した。
「逆になんで国語でそんなに点とれるの。あれ全体的に問題が理不尽じゃない?」
「そうかな? 漢字とか暗記で行けない?」
「登場人物の気持ちとか作者の気持ちとか書かされてマルをもらったためしがない」
「そこはあんまシリアスに考えちゃ駄目なんだと思うよ?」
 双子がまた天秤の言葉を受け流しながら「ですってよ水瓶さん」とやたら軽い笑みを浮かべた。水瓶が「いや」と強く言葉を打ち出してからさらに雄弁に自分の考えを語る。三人で喋っていると相乗効果で三人とも早口になっていき、行き交う情報量も頭一つ抜けたものになるのだった。
「ちょっとさ、三人で一回勉強会しよう。双子は英語教えてよ」
「いーけど。どこでやる? マックかサイゼ行く?」
 横から水瓶が「え、そんなうるさいところでやるの?」と、天秤は「脱線するかも……」とツッコミを入れてくるので、双子は笑った。
「どーせ図書室とかでやっても黙ってらんないじゃん、俺ら。あ、カラオケボックスでもいいよ」
 よく喋る奴等だなと思うが、そんな二人が双子は嫌いではない。


 - fin -

作品データ

初出:2021/5/22
Twitter企画#占星術創作ワンドロ参加作
同人誌『二人旅、風の馬の国/攻める奴ほどよく喘ぐ』収録(※同人誌はR18)
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