茶髪コンビ(ワンドロお題「新生活」)

 高校の入学式、体育館で同じ制服に身を包んだ同級生たちの一部になってパイプ椅子に座っていると、まだかすかにひんやりした空気の中にニスの香りが薄く香る。
 牡羊は校長のスピーチを耳から耳へ素通りさせつつ、茶髪に染めた頭を時折左右に振り向けてこれから同学年になる面子の姿を見ていた。全数はクラス四つ分くらいだろうか。男子は自分よりも体格のいいやつが多い。牡羊自身が早生まれということもあり、昔からこの展開には慣れたものだ。同じ中学から上がってきた奴も多いが、中学時代によく遊んでいた仲間とは別々の高校になってしまった。
 犬みたいな顔、猿みたいな顔、キジみたいな顔。これから縁があるかどうかわからない多数の中に、茶髪や金髪の男子をちらほら見つける。
(ほー)
 自分とおなじように最初から気合入れてきたやつもいるんだなと思ったりする。

 体育館での入学式を終えてそれぞれのクラスに向かうと、生徒の机は出席番号順に暫定で割り振られた場所が与えられた。廊下側からスタート、前から後ろへ流れてまた横列の前へという形であいうえお順に流れるようだ。牡羊は一周回って二列目の最前席になり、ざわつく教室内で左右と後ろの面子を確認する。廊下側の隣席には自分よりさらに明るい茶髪のヒョロ長い奴が座っていた。いかにもじっと座ってられなさそうなそいつが、牡羊の視線に気づくなりやけに気遣いな表情で「同じクラス?」ときいてきた。
「同じクラス。よろしくな。俺牡羊」
「あ、オレ射手。出席番号1番ってヤバいよね。よろしくー!」
 サムズアップとともにペロリと舌を出しながらウインクする射手に、声量だけは「よろしくー!」と声をあげながら、内心自分より緊張してそうな奴がいることにホッとしたりもする牡羊だった。後ろの席も窺ったがいかにも大人しそうな奴が座っており、声をかけるのを躊躇った。確かあいうえお順なら蟹とかいう奴だったと思う。また、射手と反対側の隣席の奴はクラス内に知り合いが居るらしく、席を立ってそちらの机側へ行っていた。
 牡羊は教師が来るのを待つ間、再び射手に会話のボールを投げてみることにした。
「この学校、あんま茶髪いねーのかな?」
 射手はその髪の色からやや近寄りがたい雰囲気を醸していたが、いざ話しかけてみるとひょうきんな表情で机に寄りかかりながら調子よく言葉を返してきた。
「あー、最初からそっち攻めてく奴そんな居ねーと思うんだよね……。オレも失敗したー。出席番号1番になるんだったらもうちょいどっちかに振り切ればよかった」
「どっちかって?」
「カンペキ真っ黒かド金髪にしてくればよかったなあ。もうね、みんなの上に立つのに向いてない。常にオンリーワン且つぼっちがいい」
 型にはまらない姿は、高校生になったばかりの牡羊には不思議に写った。出席番号1番というのも景気がいい数字のように牡羊には思えるのだが、相性があるようだ。
「1番だけ代わってやってもいいけどな」
「マジで~? お前めちゃくちゃいい奴じゃん」
 射手のくだけた話しように笑いがもれてくる。気合をいれて茶髪にしたは良いけれど、もしこのまま、自分がこの教室の空気にもっていかれてしまったらどうしようかと思っていた。射手と話しているぶんにはそういうこともなさそうだ。
 開いた窓から暖かい風が通ってきて、息がしやすいと感じたころ、教室の扉をあけて担任教師が入ってきた。


 - fin -

作品データ

初出:2021/4/10
Twitter企画#占星術創作ワンドロ参加作
同人誌『二人旅、風の馬の国/攻める奴ほどよく喘ぐ』収録(※同人誌はR18)
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